Bateau-Lavoir

対談連載「バトー・ラヴォワール」

Vol.3 荒井理恵さん〈後編〉

KATSUMATA JAPAN officeの勝又美孝が気になるゲストをお呼びして、お仕事の話をうかがいながら生き方について学ぶ連載企画。第4回はインテリアデザイナーからジュエリーデザイナーへと転身し、現在は真珠を扱うジュエリーブランドのMANORIE Peal Jewelryを手がける荒井理恵さん。センスあふれるショップにて、インテリアとパールジュエリーへの熱い想いから、華麗なる転身の裏側、日々の支えとなっているものにまで迫りました。

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「自分は好きが積み重なっているだけの人間。 突き詰めるためにはさまざまな経験や知識が必要」

「自分は好きが積み重なっているだけの人間。突き詰めるためにはさまざまな経験や知識が必要」

ブランドを始めて自らも真珠のコレクターに

勝又美孝(以下K 状況が好転するきっかけみたいなものがあったんですか。

荒井理恵(以下A なんだろう。何か大きなことがあったわけじゃなくて、少しずつリピーターさんが増えていったことですかね。ポップアップのお客様の7割くらいは2回目の方々です。その人たちをいかに飽きさせないかということに追われている感じがします。

K 常に新鮮に思ってもらえるように。

A あの方にはあれとこれを買っていただいたから、次はこういうのが響くかなと考えながら。

K 具体的に顔を思い浮かべて作っているものもあるんですね。

A 全体の値段のバランスとかも偏らないようにしながら。

K もともとは自分が着けたいものを作っていたんですよね。

A 最初はそうでした。でも、いまは真珠自体がすごく好きになっていて、一般的には白くて丸いものがいちばん売れるんですけど、そういうものはよほどきれいじゃないと仕入れないので、どんどんマニアックな方に向かっています。それと、好きでたくさん真珠を買って、また新しいものを買いたいからそのために作って売るというのもあります(笑)。

K 前とは違う意味で自転車操業みたいな(笑)。そうした思いがジュエリーを作る原動力になっているんですか。

A お客様のためと自分のため、その両方が同じくらいの位置にあります。

K コレクションといっても、結局売っちゃうんですよね。

A 本当に気に入っているものは少し寝かせて、しばらく自分の手元に置いておき、まあいいかとなってから放出します。

K 一度は自分で所有して。

A ただのオタク心です(笑)。だから、お客さんからこういう色、サイズでっていうリクエストがあったときに、あるにはあるけどって渋々(笑)。搬入のときにスタッフが出したものを引っ込めて、それをまた出すことになったり。売りたくないものに限ってすぐ売れちゃうんです。まあ、それはそうですよね。

K 欲しくなるようなものはお客さんも同じ。

A いまとなってはお客さんも知ってるんですよ。「ホントはあるでしょ」って。だから、隠しきれない(笑)。こないだも珍しいものが入ったので、すぐにインスタのストーリーで上げて。コレクターなので自慢したくなっちゃう。承認欲求(笑)。で、10分くらいで買い手が決まっちゃいました。

K 決まっちゃいましたって(笑)。人工的に作れないものだから一層魅力を感じるんでしょうね。

A でも、珍しいものを買ってくれる人はほとんどがリピーターさんなので、また会えることが多いんです。あ、私が好きなのを着けてくれている、やっぱりいいなって。

K いい話ですね。

A 私がいいと思うものに余計な手を加えず最善の形でお届けしているので、より真珠オタクの人から買いたいというお客さんが集まってくれている感じです。いま真珠のブランドはたくさんありますが、ここまでマニアックになっているところはないんじゃないかなって。

K こういう人に着けてほしいとかってあるんですか。

A 全員! 世のみなさんに。似合わない女性はいませんし、男性の方にも着けてほしいです。ポップアップで真珠が好きじゃないっていう方もいるんですけど、そうやって立ち止まってくださってる方は好きになり得ますし、実際に好きになってくれた方が多くいます。

K 日常的に着けるもいいし、特別な日に着けるもいい。

A 数千円のものから数十万円のものまでいろいろなタイプがありますし、どんなシチュエーションにも合わせられますので、毎日着けていただくのもいいなって思います。

ブランドと真珠を取り巻くシーンの現在

K お求めはいまこちらのショップ、オンラインストア、ポップアップになりますかね。ブランドとしての今後の展望はありますか。

A 最初のうちは大きくしたいと思っていたんですけど、いまそういう気持ちは全然なくて。真珠が知らない人のところに行くのが嫌で。

K 子供みたいだね(笑)。

A 自分の中で生まれたものはできれば見える人に買っていただきたいから、あまり大きくする気はないです。ショップはアポイント制でハードルは高いかもしれないですけど、来てくれた方にはゆっくりとお話しをして買っていただけますので。

K いい状態なんですね。

A ずっと同じことをしていたら衰退していくとは思いますけど、利益を増やすことを目指すようなことはありませんね。

K 自分が着けたいものがないというところから始め、いまでは真珠を扱うブランドが増え、それこそメンズが着けるようにもなりましたが、こういう状況は荒井さんの目にどう映っているんですか。

A 自分のものじゃなくても真珠を着ける人が増えているのはうれしいです。大手の真珠のブランドさんが成長するほど、私のところに漏れてくるもの、漏れてきてくださる方も多くなりますから。広告を出していただければ真珠に対する認知度も高まりますし。先日もMIKIMOTOさんが千葉雄大さんを起用したメンズパールの広告を出されていて、すごくいいなと思いました。同業他社のブランドさんが売れていると聞いても、そのうちこっちに回ってくるだろうと(笑)。入り口はそちらで、突き詰めていくとこちらと。

K そこは自分の中で住み分けができているんですね。

A オタクなお客さんたちとああでもない、こうでもないとやりとりするのが楽しいですね。

K 男性のお客さんも増えていますか。

A 増えてきました。メンズラインというものはないんですけど、ポップアップにフラッと来て買っていただいたり、奥様が旦那さんにオーダーされたりとかはありますね。30代の方が多いでしょうか。

K そうなんですね。

A メンズパールについては、最初にハリウッドで流行ってると聞いてもあんまり信じられなかったんですけど、だんだん見慣れてきましたね。すごくいい時代です。

K 知り合いのメンズブランドにも紹介したいなって。コラボレーションなんかもすでに声がかかってそうですけど。

A お話はいただいていますが、まだ実現しているものはありません。本当はもっと商売しないといけないのに、ガツガツしていないんです(笑)。まあ、時期を見てよいお話があれば、ですね。

K オーダーメイド的なものもお願いできるんですっけ?

A やっていますよ。リメイクなんかもできます。

何かを突き詰めるために必要なのは知識と経験

K お酒が好きって話もありましたが、それ以外で趣味とか息抜きはありますか?

A 仕入れと買い付けかな?

K それ仕事(笑)。

A 買い付けがとにかく楽しいんです。本当は海外旅行に行ってインテリアや建築を巡るのが好きなんですけど。ホテルとかレストランとかすべて建築やインテリアを優先して選びます。世界遺産とかの観光スポットはついでに行けたらってくらいで。骨董市やフリーマーケットも昔から好きですね。ゴミの山みたいなところから宝物を見つける。真珠の買い付けもそれに似ているところがあるんです。だから、やっぱり仕事が趣味です(笑)。

K 普段からも真珠、建築、インテリアって感じなんですね。

A そうですね。あとは新しいお店に行くのが好きです。いち早く行って、いまの建築の流行りだとかを感じる。ああだこうだ言いながら(笑)。

K インスタに建築をメインにした別アカウントがあって、そっちも写真がお上手で、本当に趣味がいい。

A 昔読んだ本で「センスは知識である」みたいなタイトルのものがあったんですけど、それがめちゃくちゃしっくりときて。例えば、見てきた空を記憶していけば、それが知識になりセンスになると思うので、本当に無駄な経験はないんだと。もともとセンスを持っている天才みたいな人もいますけど、私自身はそうではなく、好きが積み重なっているだけの人間なので、凡人が何かを突き詰めるためにはそうした経験や知識が必要ですよね。

K さまざまなものが積み重なって、いまがあると。今日はいいお話が聞けました。ありがとうございました。またお酒が飲める状況になったら、そういうところでも交流を深めたいと思います(笑)。

A ぜひよろしくお願いします。

荒井理恵(あらいりえ) スペインのグラナダ大学芸術学科留学したのち東京にてインテリアデザインの仕事に従事。真珠の魅力を広めたいという思いからPEARL PARTYを設立し、2018年にMANORIE Pearl Jewelry に名称を変更。現在も店舗などの設計を手がける。

勝又美孝(かつまたみたか) 
1998
年、SOPH.の立ち上げメンバーとして広報に就任。スタイリストへのリースやメデイア対応、販促物制作を通してブランドイメージの確立に寄与した。2020年にマネージメントやPRを業務とするKATSUMATA JAPAN officeを設立。

Photography  KENTARO MATSUMOTO
Text  YUSUKE MATSUYAMA